毎年この時期に名古屋に全国から木工家が集まり、様々な企画や展示が行われる『木工家ウィークNAGOYA』というイベントが開催されます。今年は初めて、その企画のひとつである「ちょっとスツール和みタイム vol.2」に参加させていただくことになりました。
いろいろな木工家の製作したスツールのほか、木のカトラリーや器を東急ハンズ名古屋店で展示販売する企画で、私達は”太田秀世家具工房”として、スツールとカトラリーを出品する予定です。
カトラリーは、端材を利用して私が製作しているのですが、手で一本一本削りだしていく作業は、コモノとはいえなかなか手間がかかり、在庫にあまり余裕がありません。今回の出品にあたって補充製作中ということもあり、代表的なものを紹介させていただきます。
オーソドックスな形のティースプーンとミニフォークです(長さ約12cm)。写真は蜜蝋を塗って仕上げたものですが、拭き漆で仕上げたものもあります。
スプーンをお買い上げ下さったあるお客様は、”半熟卵を食べるとき、金属のスプーンではどうしても金属味が気になる。これは半熟卵専用にしたい。”とのことでした。
バターナイフ(長さ約17cm)は少し変わった形をしています。もっとナイフに近い形のものが一般的だと思いますが、これにはちょっとしたエピソードが…。
以前はナイフ状のものを作っていたのですが、それをご使用下さっていたあるお客様から”折れてしまった”とのお話しが。
状況をお聞きしたところ、ビン入り発酵バターを愛用されており、普段は冷蔵庫から出して少し柔らかくなってからバターナイフを使われていたそうなのですが、その時はちょっと急いでいて、まだ固い状態のバターを無理にすくい出そうとされたのだそうです。バターナイフ自体に問題があったわけではなさそうでホッとしましたが、私の想像の中に”ビン入りバター”というものが全く無かったことに気づかされました。
そこで、ビン入りバターにも使いやすいよう、持ち手を大きくして握りやすくし、力を入れても折れにくいよう、硬く木目のつまったナラの木を使い、くびれの部分もある程度の太さを持たせた形にしてみました。前述のお客様にもご試用いただいたところ気に入って頂けたので、これを私の定番のバターナイフとしました。
一般的なバターケースには収容できないという難点はありますが、本来の目的である”バターが塗りやすいこと”を優先させたバターナイフです。
ジャムスプーン(長さ約17cm)は、あまり力がかからないので、すっきりスマートな形です。ビンの底までしっかりすくい取れるよう、先の形を工夫しました。
この、革ひもを巻いたちょっとおしゃれな雰囲気の短いスプーン(長さ約9cm)は、実は失敗の産物です。
以前、スマートな細身の食事用のスプーンを製作してみたことがあります。試用してみるととても食べにくく、食事用には使いたくない代物になってしまいました。でも形はとても気に入ったので、シュガースプーンとして使えないかな、と何本か作っていたところ、そのうちの1本が、元々割れが入っていたらしく、首のところで折れてしまいました。
せっかく手間をかけて削ったので薪にしてしまうのはもったいなく、家で何かに使えないかと考えましたが、なにせ柄がほとんど残っていません。そのままではとても持ちにくかったので、残った短い柄の部分に紐を巻いてみたところ、なんだかいい雰囲気に。家でコーヒー豆用に使ってみると、これがまた良い感じ。
で、残りの製作中のものも柄を短く切って、持ち手に革ひもを巻いて、コーヒー豆、茶葉、調味料などにお使い頂ける小さなスプーンにしました。
あるお客様は、「アクセサリーにも使えるね」と。それを聞いた私が”アクセサリーとして身につけておけば、デパ地下の試食にも使えるかも” なんて意地汚いことを考えたのはここだけの話。
これもちょっと小さめのスプーン”小匙”です(長さ約7cm)。写真は蜜蝋を塗って仕上げたものですが、拭き漆のものもあります。
もともとは紅茶葉を測る”ティーメジャースプーン”として作ったものです。初めはもっと持ち手が小さかったのですが、お客様の”お箸置きにもなるね”との声で持ち手を少し大きくして、お箸を置いても安定するよう改良したのが今の形です。持ち手を大きくすることで持ち心地も良くなりました。
ティーメジャースプーンとしてはもちろん、お薬味や香の物の器を兼ねたお箸置きとしてもご使用いただけます。
こんなふうに、お客様との会話など、ひとつひとつの作品にはそれぞれ忘れられない思い出があります。手づくりならではの醍醐味であり、同時に責任も感じます。大量生産ではできない、丁寧なものづくりを続けていかなければ、と思います。
ところで、いよいよ来週は、「第12回ひめじクラフト・アートフェア」です。今年で3回目の参加となります。今回は、定番の椅子やスツール,上で紹介したカトラリーなどのコモノのほか、小さめでシンプルな厨子など、クラフトフェア初出品の作品も展示する予定です。
121番ブースで2人でお待ちしておりますので、是非お立ち寄りください。
よいお天気になりますように!!(Ku)